佐々木正美先生講演会(2/2)
「自閉症支援の夜明け」
こんな あやふやな世界で 「普通」の人はよく平気でいられますね
コロラド大学 畜産学の助教授で、高機能自閉症である テンプル グランディンさんは自分の世界について語った。
「私は言葉でものを考えることが きわめて苦手です。絵でものを考えます。言葉は即座に映像に変えます。自分の頭の中で CD-ROMのディスクにすべての情報を記録し、ビデオを再生するようにしながら考えます。」
「幸福という言葉を聞くと フレンチトーストを食べている時の映像を思い浮かべます。このことを言うと ほとんどの人が私の幸福の概念は狭すぎると言う。どのくらい広いのかと聞くと誰も答えてくれない。そんなものは語れるものではないと言う。自閉症の側から言わせてもらえれば 人にも説明できないような そんないい加減な概念を よく平気で使っていますねと思う。普通の人たちはあいまいな世界のなかで 平気でいられる。」
例えば「普通」の人、Aさんが 長い間会っていなかった Bさんに たまたま駅で会って 5分ほど立ち話をする。元気そうで ニコニコしていて 幸福そうだと思う。Aさんは家に帰って 奥さんに「Bさんは幸福そうだった。」と話をする。奥さんは「あーそう。それは良かった。」と言う。テンプル グランディンに言わせれば「元気そうでニコニコしていただけで 何がわかったんだ。奥さんはそんなあいまいなものを なんで理解できるのか。」となる。こんな会話は 自閉症の人には成立しない。「普通」の人は あいまいなものを あいまいのまま 共通理解を し会っている。
自閉症の人は 視覚的で具体性をもったもののみが 意味を持つ。これは自閉症の人たちが共通して持っている。
私たちの方から自閉症の人に近づいて、それから道筋を見つける。
障害の本当の意味は 私たちとその人の間に障害があることなのだ。その人との間にある障害を取り除いてしまうとその人は障がい者ではなくなる。障害を取り除くというのはバリアーを取り除く バリアフリーにするということである。バリアーが小さくなれば 相手が変わらなくても 障害が軽くなったということである。
TEACCHプログラムの創設者である エリック ショプラーは「自閉症の人たちが 私たちの環境や文化を理解しているのと 私たちが理解しているものと間には 様々なギャップがある。そのギャップを 一つひとつ埋めていくのが私たちの仕事だ。」と言っている。
イギリスの世界的に高名な自閉症の専門家で 自閉症のお母さんでもあるローナ ウィングさんは、「自閉症の人のほうから 私たちの世界に入ってくることは絶対にできない。私たちの方から近づいていって、それから私たちの世界に入ってくる道筋を、一人ひとりに合わせて 見つけ出してやることが必要なのです。」と言っている。自閉症の人が私たちの世界を理解するよりも 私たちが自閉症の世界を理解するほうが はるかにやさしい。私たちが自閉症の人たちの文化や特性を理解できなかったら 共存なんてことはあり得ない。
自閉症の人たちを 私たちの世界に無理やり入れようとする人は、自閉症の教育とか 療育とか サポートは絶対にできない。言葉がけをたくさんすれば覚えるだろうとか、昔は善意からとはいえ、本当にひどいことをした。目の見えない人に 根性で私たちと一緒に行動しろという人はいないでしょう。耳の聞こえない人に 一所懸命頑張れば 授業だってなんだってわかるようになるなんて言う人はいないでしょう。
私たちがまず歩み寄る。歩み寄ることが出来ない人は 自閉症の人たちに対する 教育も療育も出来ない。こちらが歩み寄れば 自閉症の人たちは安定する。
(この項 終わり)