TEACCH親のためのセミナー・第3日

2日目の午後にコミュニケーションの講義。3日目の午前中はコミュニケーションの実習。筆者のチームはデビッド(20歳、最重度)と実習を行った。デビッドはほとんどコミュニケーション(しぐさや表情)がなく とても苦労した。

コミュニケーションを教える(講義)

コミュニケーションとは他人と情報をやり取りをするプロセスのことを言います。子供が相手にボールを投げ、相手がボールを投げ返し、子供がボールを受け取る。クッキーという言葉が話せてもコミュニケーションとして使えなければ何の意味もない。

おやつの時に 子供がクッキーを触って母親にクッキーが食べたいという要求が伝えられ、クッキーをもらえたほうが子供にとってどれだけ役に立つか。どんな手段であろうと、まずコミュニケーション(ボールを投げ、相手のボールを受け取る)ができることが大切だ。

コミュニケーションには 自分が表現する(ボールを投げる)ものと相手からのコミュニケーションを理解する(ボールを受け取る)ものがある。

(1)自分が表現する。(表出。話したり、表情、しぐさなどで表現。)

(a)自分が自発的に表現する。(自発的)

(b)相手から誘導された表現。(誘導。何が欲しいか聞かれ、クッキーと答える)

(2)相手からのコミュニケーションを理解する。(受容。相手の話を聞いたり、相手の表情やしぐさを見る。)

まず 何も手を出さずに「自分が自発的に表現するコミュニケーション」を観察する。なぜか。子供が大きくなって社会に出た時に 自分から自発的に他人に向かって何かを伝えることは非常に大事なことだからだ。

「自分から自発的に表現するコミュニケーション」が観察出来たら、それがどこで誰と、どんな手段で、何のために何を伝えようとしているのかを記録する。

次のステップは子供にとって使いやすいコミュニケーションを一つ選んで 条件を一つだけ変えてやってみる。例えば 学校でおやつの時間に先生に対して 「コップをつかんで」 コップにコーラを要求することが出来る。今度は子供に おやつの時間にクッキーを入れた実物(例えばジブロックにクッキーを入れてテーブルの上に置いておく)を使って クッキーを要求できることを次の目標にする。目標は一歩づつ設定する。急ぎすぎると 子供は混乱するだけである。

コミュニケーションを教える(実習)

まず何もせずに観察。コミュニケーション(しぐさ、表情など)は観察されなかった

筆者のチームはデビッド(20歳 最重度 ほとんどコミュニケーションがない。理解に時間がかかる)を担当した。大変苦労した。まず何も手を出さずに 課題、休息、おやつの時間を使って「自分から自発的に表現する」コミュニケーションを観察した。

デビッドはコミュニケーションがほとんどないので、サンプルを取るにあたって いくつかの意地悪をした。デビッドはカギを缶のスロットに入れる課題をいつもやっている。この課題をやる際に スロットにわざとテープを張って、カギが入らないようにした。また課題から休憩に移るときに わざとに休憩場所のいすをひっくり返しておいた。ほぼ1時間ほど手を出さずにデビッドを観察したがコミュニケーションは観察されなかった。おやつの時間でさえ飲み物やお菓子の要求がなかった。

いくつか工夫をしたところ、何とかコミュニケーションを観察することが出来た。

チームで相談し、どんなものでもよいからデービッドのコミュニケーション(しぐさ、表情など)を見つけようということになった。デービッドの興味があるおやつの場面を使うことにした。デビッドに余計な情報が入らないように 机の前には衝立を置いた。

いくつかのトライアルの結果、ついにコミュニケーションを2つ観察できた。

◎ テーブルの上におやつの実物を4-5種類載せていたが、これらを机からきれいに片付けた。クッキーをビニル袋に入れたものを机の上に置いた。デービッドはビニル袋をもって先生にクッキーを要求した。

◎ コップに少しだけドクターペッパーを入れて机の上に置いた。デービッドがドクターペッパーを飲んだ後でコップをもって先生の方へ手を差し出し、もっと入れるように要求した。

デービッドは周りのノイズを極端に減らした状態で、おやつの場面で実物を用いて、クッキーやドクターペッパーを要求することが出来た。つぎのステップとしては目標を設定しコミュニケーションの幅を広げることである。(筆者のチームはここで時間切れ。終了となった。本来はコミュニケーションの幅を広げて終了となる。)

(この項終わり。4日目のページは余暇を過ごすの講義と実習。)